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■ 「ちっぽけな作品展」から個展へ

息をひそめて、「じゃ、みんな入って、入って」と友人たちを招き入れる。深夜の大学の構内。日中はアート学部の学生でにぎわうこの建物も、この時間は誰もいない。階段スペースの壁と床に、イラストやスケッチ、油絵、素焼きの陶芸作品などが展示されている。

一夜限りの、個展。

1995年に、はじめて自分の作品展を開きました。アメリカに留学をしてまだ1年経ってない頃。たまたま受講したアートのクラスがことのほか面白くて。陶芸や油絵を学び始めたころ。

個展と言っても正式なものではなく、夜中に大学のアート学部棟に忍び込んで、非常階段に作品を並べて友達に見せただけ。ささやかな、ゲリラスタイルの作品展です。タイトルは『勝手に小さな作品展』で、副題を「Biggest Little Art Exhibition In The World」としました。大学のあったリノの街のキャッチコピーが「Biggest Little City In The World」、すなわち「世界で一番大きな小都市」というものだったので。それをもじって、「世界で一番大きな、ちっぽけな作品展」という意味です。

展示したのは、油絵の自画像と、スケッチブックに描いた何点かのドローイング。素焼きのままでまだ本焼きをしていない陶芸作品など。それを友達に見せながら、作品について少し話をして、最後に綺麗に撤収して帰る、と。

終わったあと、作品の一部を友人たちにプレゼントしました。

楽しかったですね。作品を制作するのももちろん楽しいですが、こうやってみんなに見てもらえることが。自分がつくったものを見てもらって、それについて一緒に何かを感じたり、考えたり、それについて話をしたりして、時間を共有できることがとても嬉しかったのです。

この後、僕はアート学部の陶芸彫刻学科に移って、本格的にアートを学ぶことになります。陶芸を中心に、写真や彫刻、水彩画、版画、果てはペーパーメイキングのクラスまで、アートに関連するいろいろなクラスを受講していきました。そして、大学四年生の時に、ギャラリースペースで正式な個展を開くことができました。ギャラリーオープニングの日に、僕はカリフォルニアロールをつくって、シャンパンとともに来場者にふるまいました。今までお世話になった大学の教授や、クラスの同級生、地元のアートギャラリーや美術館の方もいらっしゃいました。そして、僕の一番最初の「ちっぽけな作品展」に訪れてくれた友人たちも。

学生時代に、自分が心の底からやりたいと思えることに出会えて、さらにそれをとことんやり通すことができて、本当に良かったと思います。

自分の原点ですね。


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